30年ぶりににおとずれたサントハイム王国は、悲しみにくれていた。
サランに城下町の賑わいはなく、ひっそりしている。
教会を訪れた。
「こんにちは」
「まあ、クリフトさんじゃありませんか。お久しぶりです」
「あなたは……そうだ、あの時のシスターでは」
旅立ったあの遠い日、このシスターは自分たちを温かく見守ってくれたのだった。
「ええ、もう年を取ってしまいましたので、お分かりにならなかったでしょう」
「いえ、すぐわかりました。…年を取ったのは私も同じです」
「神父様に会いにいらっしゃったのですね。どうぞこちらへ」
古くなった石造りの教会を歩くとき、懐かしい香りがした。



通された神父の部屋は、自分が知っている小さい頃とは趣が変わって、ここだけが未知の部屋のようだ。
クリフトよりも一回り若いサランの神父は、静かに声をかけた。
「久しぶりですね、クリフト様。最後にお会いしたときはまだ私は子供でしたから」
「いつも手紙を送っていただきありがとうございます」
「とんでもない。でも今回はあまり差し上げたくなかったのですが」
「…………」
「大変なショックをお受けになられたでしょうね」
「……まだまだ未熟者で恥ずかしい限りです。前国王陛下のときもブライ様のときもたいへん悲しかったのですが、今回は立ち直るまでには…とても時間がかかりそうです。………いい年をして、みっともないのですが」
「……大切な人をなくされたのですから、当然のことです」
「…………」


クリフトは気になっていたことを尋ねた。
「あの、姫様が知らせるなとおっしゃったとは、どういうことでしょうか」
「ご存知だったのです」
「どうしてでしょう……?まさかあなたが、ということはありませんね。たいへん失礼いたしました」
「いえいえ、私ではありません。…何ヶ月かに一度、必ず白い鳩がサランに来るので、不思議にお思いだったようです。それでおわかりになったようです。もっとも私がそれを知ったのは、女王陛下がお亡くなりになるその日だったのですが」
「そうだったのですか」
「でも一度もクリフト様に伝言を頼もうとはなさいませんでした。知ってて知らぬ振りをなさっていたのです」
「姫様は私になど用事はございません。当然のことです」
「………。お亡くなりになるとき、最期のお話をお伺いしました。女王陛下は人払いをなさって」
「……………」
「『クリフトには絶対に言わないで。きっとひどく悲しむから。きっと苦しい思いをするから。私は元気だといつも嘘をついて』とおっしゃったのです。それでご存知だったのだとわかりました」
「……………」
「でもやはり嘘を申し上げることは私にはできません」
「……………」







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