「幸せそうな顔をなさいました」
「…?」
「『天国に行けるかしら』とおっしゃったので『もちろんです』と申し上げましたら『大事な約束があるの』とおっしゃって、なぜかとても幸せそうな顔をなさいました」
「!」

「その後は皆様をお部屋にお呼びになり、それぞれの方に感謝の言葉をお述べになっておられました」
「…………」
「女王としてとてもご立派な最期でした」
クリフトは涙があふれそうになる。


エルジェは席を立ち、机の中から何か取り出した。
「これを、クリフト様に。女王陛下の形見のお品です。陛下の鏡台の引き出しに入っておりました」
そのロザリオにクリフトは見覚えがあった。
「これは、昔、私が」
「大切になさっておられたのでしょう。オルゴールの中に、手紙と一緒にしまってあったのです」
「手紙……ですか?」
「これがそうです。どなたもご覧になっておられません」


『クリフトへ』という表書きの封筒だった。


「これは私宛てではなく、王太子様宛てなのでは」
「王子様へは『息子クリフトへ』という手紙があったので、これはあなた宛てでしょう」
「…………」


「どうぞごゆっくりなさってください。今晩はここにお泊まりください。私は仕事がありますから」
エルジェは、そう言うとクリフトを一人部屋に残し、鍵をかけた。


しばらくクリフトはその封筒をじっと見ていた。柔らかな右下がりの筆跡。裏にはサントハイム王家の封緘がある。




クリフトは封を切った。







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