【大好きなクリフトへ


あなたがこの手紙を見てるってことは、何らかの事情で私が死んだことがわかったわけよね。
このロザリオ覚えてるでしょ?あなたにもらったの、ずっと昔。まだ子供のとき。
『これを姫様に差し上げますから、もっと真剣に神様にお祈りしてください』って。

あの頃、私は不真面目で、いつもあなたや神父様を困らせたわ。
あ、でも今は真剣に神様にお祈りしているのよ。
『天国でクリフトに会わせてください』って。
でも、どうも向こうでもお父様やブライに叱られそう。やだなあ。
ブライの小言をまた聞かなくちゃいけないかと思うと気がめいりそうよ。


ねえ、今泣いてるでしょう。
だからクリフトに知られたくなかったのよね…。

昔、交わした約束覚えてる?天国で私と結婚してくれるって約束。
でも、今、クリフトは誰かと結婚しているのかもね。
だったら無理しないでいいよ。



嘘。



嘘なの。
私だけのクリフトでいて欲しいの。


なんだか、恥ずかしいね。
こうして病気になってしまうと、気弱になっちゃうのね、どうしても。

そういえば昔冒険したときに、あなたが病気になっちゃって、パデキアを探したことがあったよね。
パデキアって万病に効くらしいけど、どうも私には効いてないみたい。
主人や息子が毎日、パデキアを飲ませるのよ。
こんな苦くてまずい薬、よく飲めたね、クリフト。
私はこっそり砂糖やミルクを入れて飲んでる。だから効かないのかなあ。


いつまで生きられるかわからないけど、死ぬのはちっとも辛くないの。
神様の元でクリフトに会えるから。
ほら、私も信心深くなったでしょ。ほめてよ、昔のように。
『姫様、ご立派です』とか、なんとか。


クリフト会いたいの。
とてもとてもとてもとても会いたい。
今すぐここに来て欲しいの。


クリフトが今ここに来て、ホイミをかけてくれたら、きっと治るのに。


嘘。ごめんね、つまらないこと書いて。
じゃあ、私先に行くから、クリフトはゆっくり来てね。


クリフト、あなたが好きよ、ずっとずっと。
ありがとう、いっしょにいてくれて。



さよなら。


                                          アリーナ】



涙があふれた。それでもアリーナの手紙を何度も読み返した。しかし、嗚咽になり文章を追うことができなくなった。


もっと早く帰るべきだった、とクリフトは自分を責めた。
誰に遠慮していたのだろう。アリーナにこんなに寂しい思いをさせてしまった。
せめて病床にあるアリーナを慰めてあげられなかったのか。


何も知らなかったから。


それは言い訳だ。


その夜クリフトは涙を流すことしかできなかった。







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