ルビーレッドの瞳。亜麻色の巻き毛。
クリフトには一目で、彼がアリーナの子供だとわかった。
「お初にお目にかかります、王太子殿下。そしてこの度は……」
「ううん、いいんです、その言葉は。もうたくさん聞いた。聞き飽きたんです」
「…………」
「お願いです、僕の部屋で話をしてください」
「しかし私はあなたのお父上にもお会いしないと」
「父は今裏庭にいます。花を見てるんです。だけどしばらく戻らない、いつもそっとしておくんです」
「…………」
「母は花は何でも好きだったんですけど、芝桜が特に好きでした。それで今、父はその花を見ているはずです。あ、母が何を好きなのかは、ご存知ですよね、僕としたことが」
クリフトは微笑した。


突然妙な感傷に襲われる。

思い出すのはピンクの花。今はたしか芝桜の綺麗な季節で。
城の周りも城内もこぼれんばかりに花が植えられていて、そこで、ついこの間まで、自分は姫様と過ごしたのではなかったか?

そうだ、僕は。

初夏のあの日。
あのピンクの花を、小さな手で姫様が摘み取られて。
枯れてしまった芝桜を見て、泣きそうなお姫様を。
僕は、なぐさめてさしあげて。
「花はそのままにしておくのが一番なのですよ」
大人びた口を利いた僕は。

それは、はるか昔の子供のときの思い出で、クリフトは、そこではっとして苦笑しそうになった。
(この城は思い出がつまり過ぎていけない……)


「クリフトさん?そこ、階段ですよ?」
目の前に階段が迫っている。歩いていたことにすら気づいていなかったのかと思う。
いぶかしげに自分を見下ろす青年に、小さく会釈した。



3階。昔アリーナの部屋だったそこは、今は王子の部屋になっている。壁はすっかり修理されていた。
「懐かしいでしょ、クリフトさん」
「ええ」
「僕は、すごくあなたに会いたかった」
「なぜです」
「だって母が好きな人だから」
「!」


「よかった、会えて」
「誤解なさらないでください」
「いいえ、誤解なんかしてない、父も知っています。母はとても父を尊敬していた。父は母をとても愛していた。二人の間には信頼関係があったから、母があなたを愛しているのも父は理解していたんです」
クリフトにはそういう関係が理解しがたい。
「だから心配しないでください。きっと父もあなたに会いたいと思っているはずです」
「…………」







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