「母は、よくあなたの話をしていました。すごく賢い人だったって。いつも僕は叱られてた。『勉強は大事ですよ、将来あなたがサントハイム国王になるんですから』って。そして言うんです。『そんなことではクリフトの名前は名乗れませんよ』って。あなたと比べられるのは僕としては迷惑なんだけど、あ、これ嫌味じゃないですよ」
クリフトは苦笑した。勉強嫌いだったアリーナは、どんな顔をして息子に勉強しろと言ったのだろう。
「でも僕は、勉強より体を動かすほうが好きなんです。いつか戦士になって、世界中を回りたい」
「もうすぐ国王になられるご身分ですから、そうはいかないのではございませんか」
「そうですよね。母がうらやましい」
「………」
「あなたと母の教育係のブライさんと、悪の帝王を打ち倒したんでしょう?『サントハイムの歴史』にたくさん載ってます。すごい冒険だったんでしょうね」
「昔のことです。それにわれわれだけでなく、たくさんの仲間がいたのです」
「それもうらやましいんです。僕には仲間と呼べる人っていないし」
「今からたくさんできます」
「やっぱり僕も冒険したいなあ。冒険が僕を待っている気がする」


彼の言葉にオーバーラップする懐かしい人の言葉。
「私は外に出たいの。力試しの旅に出たいの!」



「ほんとのことを言えば、まだ国王の座に就くのはおこがましい気がする」
「そんなことはございません」
「僕に国王がつとまるかすごく心配なんだ、まだ僕は若いし」
「それは大丈夫です。周りの方々がきっとあなたをお助けなさいます」
「それはわかってるけど、でも母のように国民に好かれるか心配なんです」
「きっと皆様に好かれるいい国王様におなりですよ」
「どうしてそう思うんですか」
「あなたは姫様に、あ、失礼いたしました。亡くなられた女王陛下によく似ていらっしゃるからです」
「姫様でいいですよ、そう呼び慣れてるんでしょ?ところで顔、やっぱり似てますか?」
「いえ、ご性格も。お若いときの姫様そのものです」
「そう。それっていいことなんだろうか」
「ええ、そう思います。きっと大丈夫ですよ。あなたは姫様のお子様なのですから」
「ありがとう。あなたにそう言ってもらえると、信じられる気がします」
「いい国になりますよ、きっと」



階段を上がる靴音が聞こえた。ダール公、アリーナの夫が上がってきたらしい。
「では王太子様、ご挨拶してまいりますので」
「僕も出ますよ」







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